こんにちは、漆畑です。
東京に越してきて、あっという間に1年半になろうとしています。
だいたい私は自分の眼鏡を年に3〜4本ほど作っているのですが、振り返ってみるとやっぱりこちらに来てからもそのくらいのペースで作っています。
私にとって眼鏡とは、もう好きとか嫌いとかでは括れないものになっているような気がします。いつも気になるモノというか。
お客様の中には眼鏡をどう選んでいいかわからないという方も多く、店員さんはどうやって眼鏡を選んでるんですか?と質問されることもあります。
そんなわけで、こちらに来て購入した眼鏡をどんな価値基準で選んできたのかまとめてみます。
基本的に、“この顔の形にこの形が似合う”といった理由では選びません。
様々な眼鏡の形がある中で、“この形しか似合わない”なんてことは誰にも無いのです。
重要なのはサイズ感やボリューム感と、どう見せたいかというイメージや気分ではないでしょうか。
眼鏡屋長いので、こういうものを掛けるとこう見られるというイメージの精度は経験値から高くなっていると思います。ですからカウンセリングの時にはそのあたりの感覚を少しはアテにしていただいてもいいかと思います。
YELLOWS PLUS glen
クリアフレームもいろいろ色がある中で、自然と黄ばんでしまったような使用感のあるクリアが掛けたくて選んだモデルです。クリアフレームは輪郭が強調されないため、思い切った形でも存外違和感なく掛けられるのですが、あえてベーシックで普遍的なボストン型を選びました。元々サングラスで発売されたモデルだったのですが、眼鏡にすると少しオーバーサイズで掛けることができて、細くて大きめに掛ける80’sなイメージにハマりました。上京してまだ間もなく、下北沢で幾何学的な柄ものポロシャツや原色ブルゾンを買ったり、気分は80’sだったんですね。音楽もEarth, Wind & Fireやmeolon、荒井由美、山下達郎などをよく聴いていました。そうだ、思い出しました。ちょうどこの頃、劇作家の宮澤章夫さん司会『ニホン戦後サブカルチャー史』という番組にもハマっていました。80年台後半から90年頃のネオンな色が懐かしく思え、次にご紹介するテオの蛍光オレンジなんかもその影響がたぶん少しあります。
Theo mille+23
気の迷い気味モデルのようですが、そうではありません。何年かに一度、テオのアバンギャルドさに挑発されるのです。海外の展示会に行くと、バイヤーの皆さんは押し出しの強い眼鏡をサラッと掛けてるんですね。ご年配の方はとくに。日本でも増えてほしいなという願望もあり、先導を買う意味もあって挑発に乗っているというわけです。たまにはでしゃばった掛け方をしてみれば、振り子の原理でコーディネートの幅が広がります。毒気にあたることで免疫力が付くのです。意外に思われるかもしれませんがスーツに合わせることもありまして、サプールと呼ばれるコンゴの洒落者たちからも触発されました。サプールに関しては、今はもう放送が終わってしまいましたが、『地球イチバン』という番組で特集されたり、ダニエーレ・タマーニさんという方が『サプール ザ・ジェントルメン・オブ・バコンゴ』という書物を出版しております。エレガンスの視点が変わるとても興味深い人たちです。
AHLEM trocadero
アレムは昨年からお付き合いが始まったデザイナーなのですが、パリで初めて商品を見た瞬間、惹き込まれる魅力がありました。直に話を聞いて、肩に力が入っていない自然体な雰囲気と、その裏にあるモノづくりへのこだわりにとても共感しました。長く愛用できるフレームになるという確信をもって購入したモデルです。クラウンパントと呼ばれる昔ながらのカタチで、近年他ブランドからもリリースされているスタイルです。元々アレムはプラダに在籍していたことがあり、彼女がデザインするとモード視点が入って現代的な価値がプラスされるように思います。エッジワークがとても気に入っています。色もカタチもレトロですが、単純にそう見えないキレがあり、むしろ未来志向すら感じます。手書き風フォントの打刻も味があります。これも元々サングラスだったのですが、眼鏡として使っています。
OLIVER GOLDSMITH commander
リアルヴィンテージな眼鏡はあまり購入しないのですが、このモデルは50年以上前にデザインされたとは思えない普遍のモード性を感じたモデルです。ゴールドスミスといえばコンスル、バイスコンスルという2型が有名ですが、私はこのモデルが気に入りました。モデル名もかっこいい。推測するに、冷戦時代、軍の指揮官などの特権階級に支給されていたスタイル、あるいはそういう人たちが好んでいたスタイルなのかもしれませんね。ミリタリールーツの道具は丈夫で長持ち、ファッション的にも完成度が高いものが多いです。
普段は地味なラウンド系の眼鏡をよく掛けていて、少し離れた距離でも眼鏡の存在感が出て何にでも合わせやすいもの、シンプルなスーツスタイルにアクセントになるウェリントンをイメージしました。光があたるとわかるくらいの深いネイビーなのですが、ネイビーは黒でも茶でも合わせられるので重宝します。あとは洋服でもジュエリーでも家具でもイギリスブランドは何かと好きです。ざっくり作っているように見えて確かにざっくりしているところがあるのですが、それも計算の内なのだとモノの佇まいから納得できるのです。構築的なのに温もりがあり、どこかに意図して手作業の足跡を残している。いいモノには佇まいからにじみ出るものがあると思います。
以上、長々と己の眼鏡選びについて講釈を垂れてしまいましたが、つまるところ直感を大事にしてください!なんだそりゃ。。
(decoraTOKYO 漆畑)